低用量ピルについてお話します。

 もうひとつ気になる副作用に血栓症と言う病気があります。 これは血管の中を流れる血が固まりやすくなる状態で、そのために血管が詰まると脳血栓や心筋梗塞、 下肢の血栓症などのこわい病気を引き起こします。服用開始後1年以内に起こりやすいのでその間は特に注意しますが、 ピルは比較的血管の丈夫な、しかも糖尿病や肥満、高血圧、高コレステロール血症などほかに血管を弱くする合併症の少 ない若い人に処方することが多いため、もともと素因を持っている人でなければほとんど気にしなくてよい程度のリスクです。

 ただし若い人でもタバコを1日1箱ぐらい吸っている人をよく見かけますが、こういう人は年齢に関係なく血栓症の素因がある 人と同様に考えて対応することが必要です。ちなみに全身麻酔手術や長時間の飛行機の旅行はやはり血栓症になる 危険性が増すのでその程度により、旅行や手術の直前にはピルの服用をやめてもらっている場合もあります。それとこ れは血液検査をしなければわからない副作用として、軽度肝機能検査値異常があります。肝臓で代謝される薬なので肝 臓に負担をかけてしまうことが原因です。飲むのをやめるとすぐに改善します。

 費用金額については、それぞれの医療機関によって薬の価格に診察やアドバイスする内容の違いが加わるため、一律ではありません 。おおむね1ヶ月に2500円から3500円あたりの出費になるように設定している施設が多いと思いますが、初診時や半年ごととか1年ごと の区切りに副作用を見る血液検査やがん検診などを行うと、そのときはやや余分な費用が要ります。副作用もなく薬の服用が安定 してきたら3ヶ月ぐらいまとめて薬をもらえますのでいきつけのクリニックで相談してみてください。

 妊娠したくなったときは薬をやめるとすぐ次の周期から妊娠可能です。飲み忘れ対策も最近は登録しておけば決まった時間に携帯電話にメールの発信のサービスをしてくれる製薬メーカーもあるので、携帯メールは必ずチェックするという人には便利な手段かもしれません。

 次にピルを飲むと(避妊以外に)こんなことが改善されるというお話をしましょう。
実は低用量ではないピル(中用量ピル)はずっと以前から不正出血を止める目的や月経を起こす目的、子宮内膜症の治療などに保険扱いで処方されてきていました。また保険外診療では旅行のための月経調節などにも使われていました。一時的にこのような薬を使うときには以前の中用量ピルの方がホルモン量が多いので効果はいいのですが、何度も使用したり、継続的や周期的に使う場合には副作用がより少ないホルモン剤のほうが身体にいいに決まっています。ただしお話ししてきたように現在のところ低用量ピルは保険が利かない薬なので(医療者側はジレンマなのですが)ご本人が支払い金額に納得されたら、病気の治療目的にも低用量ピルを幅広く使用しています。特に病気とは言えないけれどそのことで日常生活が快適に過ごせない正常との境界のような病態、例えば@月経不順でいつ生理がくるかわからないA月経痛がひどくて仕事にも支障を来たすB月経量が異常に多いのでいつも生理のときには外出もできないC月経前になると特にいらいらしたり、胸がはって気になるD排卵痛が結構しんどいなどでしかも@−Dのどれも診察しても特に異常がない場合などが当てはまります。また裏技で微妙に月経周期を調節できるので、(少し前から予定がわかっているなら)旅行の日程や重要な行事に月経が重ならないようにすることも可能です。それから月経不順や月経前症状として肌荒れやにきびが出やすい人にも効果が期待できます。これらに当てはまる人は避妊目的がなくてもどうぞ遠慮なく婦人科に相談してみましょう!

 最後にもう一度避妊のことに戻りますが、確かにピルをちゃんと飲んでいると不意な行為や成り行きで妊娠する心配はなくなりますが、これは決して“むやみやたらにセックスしても安全”という意味ではありません。特に結婚前はピルを飲んでいてもコンドームを使用しなければ怖いエイズや梅毒、クラミジアなどの性感染症の危険が潜んでいます。相手の男性にはなるべくピルを飲んでいることを伝えないのが相手にも協力してもらっての自分の身を守る大切なポイントです。  (2006年10月17日作成)

 

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